腰麻痺は、北海道を除く各地で夏から秋に発生する羊の代表的な疾病の一つです。
発生のピークがちょうど交配時期に当たるため、めん羊飼育にとって大きな打撃となります。
腰麻痺からめん羊を守るため、適切な予防と早期発見、早期治療に心がけましょう。
原因と症状
原因は指状糸状虫
- 腰麻痺は、脳脊髄糸状虫症とも呼ばれ、体内に寄生した指状糸状虫が脳脊髄など中枢神経系統に迷い込み、神経組織を刺激破壊することによって起こる。
症状は運動機能障害や麻痺
- 斜頸、顔面麻痺、跛行、起立困難、旋回運動などの突発的な神経症状
- 体温や脈拍、食欲には変化がない。
間違え易い病気には、熱射病(日射病)や低カルシウム血症などがあります。
感染経路と腰麻痺発生のしくみ
感染経路は牛→(蚊)→めん羊
- 指状糸状虫は牛の腹腔内に寄生しており、この子虫が蚊の媒介によってめん羊に伝染する。
腰麻痺発生のしくみ
- 指状糸状虫は牛の腹腔内に寄生しているが、本来の宿主である牛に障害を与えることはほとんどない。
- 牛の血液中に産出された指状糸状虫の子虫が吸血により、蚊の体内に移動する。
- 子虫は蚊の体内で約2週間を過ごし、他の家畜に感染力を持つ成熟子虫となる。
- 成熟子虫は蚊が吸血する際に羊体内に入る。
- 成熟子虫は約1ヵ月で幼虫に成長し、中枢神経系統内に迷い込む。
- 幼虫が神経組織を刺激破壊して腰麻痺を引き起こす。幼虫は成虫にならず、めん羊の体内で死滅する。
腰麻痺は定期的に駆虫を行っていても完全に防ぐことはできません。しかし、予防を行うことで確実に発生頭数は減り、症状も軽くてすみます。濃厚感染の場合には、大切なめん羊を死なせてしまうことにもなりますから、東北以南の地域では定期的な予防を欠かすことはできません。
予防の方法
定期的な駆虫
- 蚊の発生時期から15日間隔で駆虫薬を投与する。(蚊の発生時期は、蚊が出なくなってから1~2ヵ月経過するまで)
牛の近くで飼わない
- 夏の間は指状糸状虫の宿主である牛から遠ざけて管理する。
- それが不可能な場合は、牛自体の駆虫を行う。
蚊の襲撃からめん羊を守る
- 水たまりや汚水槽など、蚊の発生源に蓋をしたり殺虫剤を撒いて、蚊の駆除を行う。
- 羊舎内では蚊取り線香(電気蚊取器)などを使用する。
腰麻痺の予防薬
- レバミゾール及びイベルメクチン製剤は線虫類に対しても有効であるが、めん羊は対象外動物であるため、出荷制限期間については牛の制限期間を記載した。
- アンチモン化合物は主に治療に用いられるが、肝臓や腎臓への副作用があるので要注意
- 用量は体重10kg当たり。
治療と機能回復
●治療には駆虫薬(上記予防薬)を投与
- 予防時の1~1.5倍量を2~4日間連続投与することで虫体は死滅する。
(症状の改善がみられなくても、これ以上の投与は無駄)
機能回復訓練で症状の改善を
- 症状の程度及び回復の可能性は神経組織の損傷状況と感染の程度による。
- 起立不能に陥ったものは、つり上げて立たせる、補助をして歩かせるなどして機能回復を図る。
- 褥創による感染症を防ぐため、敷ワラを充分に入れ、エサや水を充分に摂取できるような看護が大切。
早期発見、早期治療に心掛ける
- 治療が早ければ症状も軽く、回復も早い。
こんなめん羊に注意して観察
- よだれを流している。
- 首を傾げている。
- 犬のように腰を下ろして座っている。
- 足がもつれて何でもない所でころぶ。
注意
薬品の使用に当たっては、獣医師に相談するなどして安全を期しましょう。