私たちは、畜産技術情報の収集・発信を通じてわが国の畜産の発展と生活に必要な畜産物の安定供給に寄与することを目指しています。

初生ひな鑑別技術

ひなの鑑別・養成

初生ひな鑑別師とは?

技術の紹介

1.鑑別技術の発見・普及の歴史
(1)初生ひな鑑別技術の確立
(2)鑑別技術の普及
  ※ 発見より海外普及まで

2.鑑別技術の進歩・向上の歴史

3.最近の初生ひな雌雄鑑別を巡る状況の変化

4.鑑別師養成制度の説明
(1)鑑別師の養成
(2)鑑別師の検定と登録
(3)養成講習案内

5.海外での活躍
  ※ 鑑別師海外派遣人数表

紹介映像

初生ひな鑑別師とは?

 初生ひな鑑別師とは、卵から孵ったばかりのひなのオス・メスを見分ける技術を有する特殊技術者のことです。ひなはある程度成長すれば、外形や鳴き声などから誰でもオス・メスの区別が分かるようになります。しかし、採卵鶏ではオスは卵を産まないので、雌雄が自然に分かるまで待っていては、その間の餌代あるいは施設が無駄になります。そのため、早くオス・メスを鑑別して、目的に応じた飼育をすることが一番合理的といえます。といっても、生まれたばかりのひなのオス・メスの区別は誰にでもできるものではありません。そこで、孵ったばかりのひなの雌雄を鑑別する職業として、プロの”初生雛鑑別師”が生まれたのです。

技術の紹介

 初生ひな鑑別技術は、養鶏産業にとって不可欠なものですが、この鑑別法の発見は、大正13年(1924年)にさかのぼります。当時、農林省畜産試験場にて、鶏の繁殖について研究をしていた増井清、橋本重郎両博士ならびに大野勇の3氏が、初生ひなにおいても生殖突起によって雌雄の差があることを発見し、これを日本畜産学会に発表したのが始まりです。この鑑別法は、指を使ってひなの肛門を開き、オス・メスの生殖突起を確かめる鑑別法から、”肛門鑑別法”ないし”指頭鑑別法”と呼ばれています。このほかに、羽毛鑑別法(ひなの雌雄の羽毛の伸びの早い・遅いの違いを利用してオス・メスを鑑別)及び、伴性遺伝を用いて改良された品種を使うひなの雌雄の羽色の違いにより鑑別する羽色鑑別法が普及しています。また、チックテスター(商標)という光学器械を用いて鑑別する”機械鑑別法”が一時期大いに普及しましたが、鑑別速度が遅く、現在では一部でしか利用されていません。

1.鑑別技術の発見・普及の歴史

(1)初生ひな鑑別技術の確立

 初生ひな鑑別技術は、生まれたばかりの鶏のひなをオス・メスに分ける技術で、大正の末期に当時の東京帝国大学教授の増井清獣医学博士及び、橋本重郎、大野勇の研究グループが鑑別の研究を行い、成鶏のオスの肛門の下壁中央に麻の実状の突起のあることを発見し(これがメスにはない)、雄鶏の交尾器官であることが判明し、初生ひなにおいても、この突起によって雌雄に差異があることが確認されました。
 この発見が1925年に日本畜産学会に発表され、次いで1927年にカナダで開催の第3回万国家禽会議においても発表され、世界の注目を浴びることになりました。

(2)鑑別技術の普及

 1932年(昭和7年)には100%の鑑別成績が出るほどになり、技術の普及宣伝のため優秀な鑑別師をカナダ、アメリカ等へ派遣しています。
 戦争により派遣は一時中断しましたが、戦後は数多くの鑑別師が養成され、養鶏振興や食料増産に役立つことになりました。また、技術者の海外派遣は外貨獲得につながり、日本経済復興にも一役買うこととなったため、鑑別師は戦後の花形的職業になりました。

年 度事  柄
大正13年(1924)増井、橋本、大野3氏が初生雛鑑別法理論を発表
大正14年(1925)小島学氏等、愛知県の養鶏業者が実用化に努力
昭和2年(1927)“メス9割責任付初生ひな”という広告が養鶏雑誌に掲載され、雌雄鑑別の普及とともに鑑別
の実用化が始まる
昭和5年(1930)初生雛鑑別師という職業が誕生。この年、日本雌雄鑑別普及会が設立され、初めて鑑別師の
養成と資格検定を行う
また、この年日本最初の競技会が開催され、30名の鑑別師が参加。屋外で太陽光線の下で
競技した
昭和8年(1933)カナダ、米国に鑑別技術の普及、宣伝のため、余語彦三郎鑑別師が派遣される。日本人鑑別
師の最初の海外進出となる
昭和8年(1933)鑑別5団体を合併し、新たに日本雌雄鑑別設立。本部を名古屋に置くとともに、鑑別師講習
所を併設
昭和9年(1934)オーストラリア・ニュージーランド並びに欧州にも初めて進出し、英国、フランス、ベルギ
ー各国へ鑑別師を派遣、普及に努める
昭和12年(1937)ドイツ・ライプチヒ市で開催の第6回万国家禽会議に参加し、増井清博士の鑑別技術の学理
的公演並びに鑑別師による技術実演を行い、好評を博す
昭和12年(1937)当時の鑑別師数
高等256名、甲種344名、乙種163名
計763名

2.鑑別技術の進歩・向上の歴史

 昭和6年頃の鑑別技術は、当時の一流鑑別師でも50羽のひなを鑑別して95%以上の成績を収める者はまれで、技術の完成にはほど遠いものでした。
 しかし、増井博士等の更なる研究が進み、鑑別技術が完成されるとともに、鑑別師の技術も一段の進歩を見せ、昭和7年には数多くの100%(50羽)公認記録が出るようになりました。
 第二次大戦後、養鶏産業の復興とともに、鑑別師の需要が高まり、優秀な鑑別師が数多く輩出された結果、かつては不可能といわれていた、採卵鶏ひな100羽を3分台で100%の正確さで鑑別する成績をあげることも恒例化するほど、技術も向上していきました。

3.最近の初生ひな雌雄鑑別を巡る状況の変化

 初生ひな鑑別が養鶏産業にとって極めて重要な技術であるということは、今も昔も変わりませんが、科学技術等の進歩により徐々に取り巻く環境に変化が起こっていることも事実です。
 日本の場合は、社会全体での高齢化がいわれているように、初生雛雌雄鑑別師の高齢化も進んでおり、高齢化と人口減少の中で、今後、どのように後継者となる人材を育て、確保していくかということが課題となりつつあります。
 一方で、最近、欧米を中心とする世界的なアニマルウェルフェア(動物福祉)への配慮の高まりから、欧州ではオスひなの処分をなくす取り組みが一部の国で始まっています。このための対応としていろいろな方法の技術開発が始まっているようですが、一例としては孵化する前の卵の段階での雌雄判別技術等も開発されつつあります。しかし、コストやひなの衛生管理、鑑別の精度等の問題から、現在の初生雛雌雄鑑別師の主な仕事の場である種鶏の生産や鶏の育種の段階での利用までには、まだ時間がかかるのではないかと思われ、当分は初生雛雌雄鑑別の技術が必要とされるものと考えています。
 しかし、このような対応が大変難しい変化が起こりつつあるということを念頭に、今後も初生雛雌雄鑑別の技術者の育成確保や、初生雛雌雄鑑別技術の改良や確実な継承にも、日本の養鶏産業の重要な一躍を担う団体として取り組んでいきたいと考えています。

4.鑑別師養成制度の説明

(1)鑑別師の養成

 当協会の鑑別師養成講習において、毎年通常4月から8月までの5カ月間、初等科(採卵鶏の鑑別)を開講し、その後、高等科(肉用鶏・ブロイラーの鑑別)を3カ月間開講し、資格取得を目指す鑑別師の養成を行っています。
 その後、講習生は、通常、孵化場で鑑別研修生として、プロの鑑別師の指導を受けながら、実地研修を行います。

(2)鑑別師の検定と登録

 鑑別師の資格は高等鑑別師一種のみです。この高等鑑別師考査を受験するには、まず、初等科ないし特別研修科(2カ月)を終了した上で、予備考査に合格する必要があります。資格認定のための検定試験(高等鑑別師考査と予備考査)は、通常春と秋の年2回行います。
 高等鑑別師考査に合格した者は、本協会の高等鑑別師として登録され、地域鑑別師会の構成会員となります。

養成講習受講資格満25歳以下で、高等学校卒業者または、これと同等以上の資格のある者
身体強健で、視力1.0以上(矯正可)の者
鑑別技術講習毎年2月上旬に学科・面接考査と書類審査にて入所試験を行う。
合格者は4月から8月まで養成所において技術講習・一般養鶏知識の講義を受け、
鑑別技術の基礎を習得した後、高等科での技術講習を受ける。
(令和4年度より、初等科講習に続いて高等科講習を受けられるように
 養成カリキュラムを変更しました。)
この後、通常は孵化場で孵化一般作業を手伝いながら鑑別研修を2~3年行う。
鑑別技術検定試験の
合格基準
予備考査供試ひなの
種類
卵用種
供試ひなの
羽数
300羽(各100羽×3)
合格基準鑑 別 率 :平均96%以上
     (ただし各100羽 95%以上)
所要時間:30分
得  点:(当協会の計算式による)
     平均92.4000点以上
     ただし各100羽、90.7250点以上
高等鑑別師考査供試ひなの
種類
卵用種及び肉用種
供試ひなの
羽数
400羽(卵用種300羽、肉用種100羽:各100羽×4)
合格基準鑑 別 率 :平均99%以上
     (ただし卵用種各100羽 98%以上、
      肉用種97%以上)
所要時間:400羽 36分以内
     (ただし各100羽 10分以内)
得  点:(当協会の計算式による)
     卵用種 各100羽、95.5000点以上
     肉用種 各100羽、94.5000点以上
鑑別師の登録高等鑑別師の資格を取得した者は、登録を行い鑑別登録証を発給する
(3)養成講習案内

 鑑別師を養成する機関は、日本にただ一つしかありません。それが、当協会の初生ひな鑑別師養成講習です。鑑別師の資格を取るには養成講習を受講し、優れた講師の指導を受け、技術の第一歩から実地に教わるのが一番良い方法であり、最も早道です。

受講資格1.満25歳以下で、高騰学校卒業者またはこれと同等以上の資格がある人
2.身体強健で、視力1.0以上(矯正可)の人
受講試験1.受験手続受験願書、履歴書、住民票、健康診断書、写真(3cm×4cm)、最終出身校
卒業証明書(または卒業見込書)及び成績証明書を添えて、当協会初生ひな鑑
別課に、12月20日までに提出してください。
2.試験期日毎年2月上旬に実施。(正確な期日は直接本人に通知します)
3.試験科目作文、面接考査、書類審査
受講手続合格通知を受けた人は、ただちに所定の手続きをしてください。
(合格通知時に手続関係書類を送付します)
講習科目1.初等科<4~5月開講:5カ月間>
ひなの雌雄鑑別についての理論と技術及び養鶏全般についての知識の習得
2.高等科<初等科終了後に開講:3カ月間>
高等鑑別師初等科を終了しても、職業鑑別師としての資格はありません。
初等科に続き高等科を終了した後、高等考査に合格して初めて資格を得ることができます。
中にはこの8カ月の講習で高等考査に合格される方もおられますが、通常は鑑別研修生とし
て1~2年孵化場で鑑別の研修を重ね、高等考査に合格するまで個人差はありますが、1~
2年はかかります。
高等鑑別師としての資格を取得したのちも、技能を高めるためにふ化場での研修が必要とな
ります。
問い合わせ先公益社団法人 畜産技術協会 技術普及部 初生雛鑑別課  ☎ 03-5807-8275

5.海外での活躍

 初生ひな鑑別の方法は日本で発見され、いまや世界中に普及しています。鑑別技術には、デリケートな指先の感覚が要求されていますが、日本人はもともと指先の器用さと感覚に優れており、99.5%以上の鑑別率を誇っています。そのため、日本の鑑別師は世界中で高く評価されています。
 このため、現在でも多くの日本人鑑別師がヨーロッパを中心に海外で活躍しています。その一方で、日本人以外の鑑別師も徐々に増えてきているのが最近の状況です。しかし、どこにいても求められることは、鑑別技術の精度とスピードという技術の高さであることに変わりはなく、この点において日本人鑑別師が優秀さには依然として定評があります。
 当協会は、意欲のある若い人たちが初生ひな鑑別師になるための手助けをしている、日本でただ一つの団体です。

鑑別師海外派遣人数表
19601970198019902000201020202023
ベルギー111522134721
ドイツ182414149131318
フランス1011211521171916
ポルトガル(スペイン含む)61510610611
イタリア312495211
ハンガリー091275764
チェコスロバキア0496
チェコ4433
スロバキア2200
デンマーク(スウェーデン含む)117569
スウェーデン2211
デンマーク511
フィンランド1011
ノルウェー12441244
ロシア8
ユーゴ04230000
イギリス140000000
ニュージーランド1244
U.S.A.121292213000
オーストラリア1
ベラルーシ1

紹介映像

 養鶏産業にとって欠かすことのできない仕事として、鶏のひなのオス・メスを調べる「初生雛雌雄鑑別」という仕事があります。この「初生雛雌雄鑑別」という仕事はどんな仕事なのでしょうか。このページでは当協会が実施している「初生雛鑑別師養成講習」の様子を動画で紹介しています。